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社会から受けるコントロール【森博嗣】新連載「日常のフローチャート」第8回

森博嗣 新連載エッセィ「日常のフローチャート Daily Flowchart」連載第8回

 

【他者が決めたことに従う人々】

 

 季節の風物詩を大事にしている人が多い。僕の奥様がそうである。満月を見て饅頭を召し上がっている。そんなに好きなら、毎日食べたら良さそうなものだが、満月は人工ではなく自然なので、その点はほのぼのとしている。

 スケジュールだけではない。たとえば、自分の命を守るためにヘルメットが必要だと判断すれば、それを被れば良いだろう。社会のルールに従うまえに、自分で決めた方が良いはずなのに、どういうわけか、大勢と同じようにしなければならない、と考える。

 また逆に、自分が判断したことを大勢にも従わせようと訴える人も多い。なにかが危険だと自分が感じたなら、自分はそれを避ければ良い。自分が研究した成果を広めたいなら、わからないでもないけれど、親切で他者に訴えているのなら、もう少し穏やかに丁寧に説明した方が相応しい。

 マナーだとか、ルールだとか、そういった決め事を持ち出す場面も散見される。しかも、それに従わない人を非難する。もし明確に違法ならば、警察が取り締まるべきことだ。「こうしてほしい」というようなものは、単なる「願望」であって、すべての人が従う義務はないのは自明。

 ところが、日本には「こうしてほしい」と社会に真顔で訴える人が沢山いて、その最たるものはマスコミだろう。みんなで願望をいい合って、大勢の声を集め、少数派を追い詰めるようなシステムになっているらしい。マナーは願望であるが、ルールは願望ではない。これだけは区別してもらいたい(これも願望だが)。

 ところで、毎日の生活で、自分のスケジュールを自分だけで決められない人が意外と多いように観察される。未成年や社会人になりたての人はしかたがないけれど、年齢が上がるほど、自分で自分をコントロールできるようになっているはずだ。違うだろうか?

 毎日何をするのか、自分で決めていますか? 

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✴︎森博嗣 新刊『静かに生きて考える』2024年1月17日発売✴︎

 

 

森博嗣先生のBEST T!MES連載「静かに生きて考える」が書籍化され、2024年1月17日に発売決定。第1回〜第35回までの原稿(2022.4〜2023.9配信、現在非公開)に、新たに第36回〜第40回の非公開原稿が加わります。どうぞご期待ください!

 

 

世の中はますます騒々しく、人々はいっそう浮き足立ってきた・・・そんなやかましい時代を、静かに生きるにはどうすればいいのか? 人生を幸せに生きるとはどういうことか?

森博嗣先生が自身の日常を観察し、思索しつづけた極上のエッセィ。「書くこと・作ること・生きること」の本質を綴り、不可解な時代を見極める智恵を指南。他者と競わず戦わず、孤独と自由を楽しむヒントに溢れた書です。

〈無駄だ、贅沢だ、というのなら、生きていること自体が無駄で贅沢な状況といえるだろう。人間は何故生きているのか、と問われれば、僕は「生きるのが趣味です」と答えるのが適切だと考えている。趣味は無駄で贅沢なものなのだから、辻褄が合っている。〉(第5回「五月が一番夏らしい季節」より)。

 

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森博嗣

もり ひろし

1957年愛知県生まれ。工学博士。某国立大学工学部建築学科で研究をするかたわら、1996年に『すべてがFになる』で第1回「メフィスト賞」を受賞し、衝撃の作家デビュー。怜悧で知的な作風で人気を博する。「S&Mシリーズ」「Vシリーズ」(ともに講談社文庫)などのミステリィのほか、「Wシリーズ」(講談社タイガ)や『スカイ・クロラ』(中公文庫)などのSF作品、また『The cream of the notes』シリーズ(講談社文庫)、『小説家という職業』(集英社新書)、『科学的とはどういう意味か』(新潮新書)、『孤独の価値』(幻冬舎新書)、『道なき未知』(小社刊)などのエッセィを多数刊行している。

 

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